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■□■萩焼豆知識そのC [日用品への開発方向その1]■□■

 

萩焼の特徴の一つに[貫入]と呼ばれる釉面のヒビがあります。萩焼だけの専売特許ではありませんし、貫入のない萩焼も数多く存在しますが、いつのころからか萩焼の特徴の一つとして挙げられるようになっております。
 貫入は素地と釉薬の収縮差によっておこることは2回目の時にお話しましたが、このことはまた後日、話が窯焚きや釉薬のことにまで進んだ時に出てきますのでここでは詳しくは触れません。
 いづれにしても製品が窯出し直前の炉内にある時や、窯出しのほんの直後では貫入はまだ殆ど発生していません。などは焼成中あるいは前段階としてはすでに施釉時に発生するものですが、通常の貫入は窯出し後に製品が外気に触れた時から発生し始めます。

 窯出しは炉内温度が200℃を切るころから除々に始めますので、ゆっくりとは言ってもガラスなどに比べればかなりの急冷になりますが、炉内温度が外気温度と同じになるまで待ったとしても、萩焼の場合その間に素地と釉薬の収縮差のために貫入は入ってきます。逆に見れば、素地と釉薬の収縮差を少なくし貫入をつなげる方向で考えれば、[無貫入]もしくは[貫入]発生を数ヶ月後位まで遅らせる製品が造れることになるでしょう。
 萩焼の範疇で考えれば、壷や水指など内側が見えず常時液体を入れておくものに関しては内側は前者としても、食器類については、素地を生(き)のままに活かす焼き物とも言える萩焼としては後者の方が望ましいと思われます。
 実はそうした製品は以前から開発され、すでに広く市場に出回っておりますが、それと気づかれない方も多いのではないでしょうか。それは萩焼として違和感もなく市民権を与えられているものと思っています。ただ、それらは現在の技術段階では一部の色調のものに限定されておりますので、まだ総ての色調の製品と言うわけにはいきません。 今後も開発をして行く必要があります。

 ここではその具体的なノウハウの開示は出来ませんが、基本的な考え方の方向はテレビドラマでも一部紹介されていましたし、業界の専門家であれば、当然の知識としてもっておりますので公開しても差し支えないでしょう。 難しいのはそれを萩焼の範疇の中でバランス良く造り、使っていく事だと思います。
 貫入のない製品を造るには大きく三つの方向が考えられます。一つ目は磁器のように素地と釉薬の原料をほぼ同一のものに揃えてゆき、双方の組成を近づけることで収縮差をなくし、可能な限り一体化してゆく方向。
 二つ目は釉薬の収縮を押さえる調合で素地とのギャップをカバーし、収縮差を吸収してしまうような熔融範囲の広いものにし、固化後の弾性を高めてゆく方向。
 三つ目は素地を調整することでその膨張や収縮など動きの少ないものにし、釉薬に負荷や応力がなるべくかからないものにしてゆく方向などです。
萩焼は釉薬というガラス質のフィルターを通して、素地の色変化を楽しむ要素が特に強い焼物ですので一番目は無理がありますが、二番目と三番目の方法はある程度可能です。  
しかしこれらも発色上の制約からどんなものにも応用出来るわけではありません。
 調整方法として二番目の釉薬からのアプローチには主に二つの条件が必要となります。
一つは釉薬原料の粒子をなるべく細かく均一なものにしてやり密度を高めてやることと、 もう一つはそれと同時に高温域での熔融範囲を拡げ、尚かつ釉中で熔け切らないような無機質原料(鉱物)を加えてやることです。
例えば(シリカ原料)、タルク(おなじみのベビーパウダーなどの主原料)、酸化亜鉛(これも化粧品や歯磨粉によく使われます)、カオリンなど窯業基本原料で萩焼にもよく使われている原料の活用や、ガラス粉や黒曜石などの天然ガラス質原料といったものが挙げられ、釉薬のベースとなるアルカリ分には木灰よりも石灰の方が適していることや、ガラス質となる長石もアルカリ系のなかで粘性も比較的少なく熔融範囲の広い三河・福島・釜戸といった銘柄のものを採用したりなど、また施釉もあまり厚掛けをしないことなどです。

三番目の素地土からのアプローチにも主に2つの方法があります。
1つは釉薬と同じように素地土の粒子を細かく緻密なものにしてやることと、もう1つは含鉄粘土など耐火度の低い粘土や釉原料でもある骨灰や長石(いづれもボーンチャイナの主原料、特に長石は殆どの釉薬の基本原料)などガラス質となるものを加えて素地全体の耐火度を下げてやり、素地を焼き締め状態に近づけてやることです。
 他には素地と釉薬の境界面で双方が熔け合った中間層が発達するような焼き方、−つまり温度の上げ方や冷し方−をしてやることなど、またそうした焼成に見合った粘土や釉薬の調合・選択は当然ながら大事な要素となります。
 そして、燃料の選択や窯の種類−薪窯・ガス窯・灯油窯・重油窯・電気窯−によりそのカロリーの加え方や時間の掛け方次第で結果は大きく異なってきますので、温度管理が非常に大切になります。
 しかし、いずれもやりすぎると堅い感じになりやすく、いわゆる萩焼らしさを損なうことにもなりかねませんので調整には慎重な配慮が必要になります。

 ただこうした手法がすべての粘土や釉薬の組合せの中で可能なわけではありませんし、貫入のもつ雰囲気や柔らかさを萩焼から全面的に排除するわけにはいきません。  各メーカーは持てる設備と技術の中から、それぞれ最良と思われる方法の組合せを選択していくことになるわけです。
次回はそうした観点から、粘土・釉薬についてもう少し細かいお話を続けて行きたいと思います

無貫入釉表面拡大写真
酸化
無貫入釉表面拡大写真
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